『タコピーの原罪』第4話。
それは、ただ「重い展開だった」なんて言葉では片づけられない回だった。
誰かを想う気持ちが、誰かを追い詰めてしまう。
善意が、純粋さが、歪んで届く。それでも彼らは、誰一人として“悪い人”じゃない。
──なのに、どうしてこんなにも胸が痛いんだろう?
この記事では、そんな“感情のつかえ”をほどきながら、第4話の「エグさの正体」を言語化していきます。
東くんの選んだ「優しさの地獄」。
しずかの笑顔に潜む「生き残るための武器」。
そしてタコピーの純粋さが暴き出す、「言葉にならない痛み」。
それは私たちのすぐ隣にある、リアルな“祈り”と“罪”の物語でした。
東くんの「自己犠牲」と兄への劣等感──“優等生”という呪い
表面上は、誰からも頼られるクラスの優等生。
でも東くんは、自分でも気づかないうちにずっと「役割」を演じ続けてきた。
兄・潤也は完璧で、母は無意識に比較してくる。
「お兄ちゃんみたいに」「ちゃんとして」──その言葉が、何度も何度も心に刺さる。
だからこそ、しずかからの「頼られること」は、唯一の救いだった。
でもその救いは、同時に「呪い」にもなっていた。
“しずかを守るために、嘘をつく”
“自分が犠牲になれば、彼女は救われる”
東くんのその選択は、ただの正義じゃない。
誰かに「必要とされたい」という切実な願いから生まれた、優しさという名の自己破壊だったんです。
しずかの“魔性”と笑顔の裏側──救いか呪いか
東くんに向けた、しずかの笑顔。
それは、とても無垢で、可愛くて、感謝に満ちていた……ように見えた。
でもその表情は、どこか“意図”を感じさせる。
「ありがとう」の一言が、相手を縛り付ける呪文にも聞こえてしまうのはなぜだろう?
しずかは、愛されない家庭で育ってきた。
だからこそ、誰かに「大事にされること」に必死だった。
そんな彼女が、無意識に選んだのは“期待に応える自分”を演じること。
その結果、東くんはどんどん深みにハマっていく。
視聴者はその様子に、ただ「かわいそう」とは言い切れなかった。
しずかは確かに被害者だけど、同時に人を動かす力を持っている。
その二面性が、不気味で、美しくて、どうしようもなく人間くさいんです。
タコピーの“善意”が生む痛み──純粋さの裏にある加害性
「しずかちゃんがハッピーになりますように!」
タコピーのこの一言には、悪意なんて一ミリもない。
でも──その純粋さが、一番残酷だった。
第4話では、しずかが東くんに頼んで埋めた「思い出ボックス」が、第三者の手によって発見されてしまいます。
それをきっかけに、しずかは疑われ、東くんは追い詰められていく。
この混乱の中で、タコピーの“善意”が静かに、でも確実に影響を及ぼしていきます。
タコピーは、ただ「しずかちゃんが笑ってくれるように」と願っているだけ。
でもその願いが、知らず知らずのうちにしずかの心にプレッシャーを与えている。
「ハッピーを届けたい」という思いが、
しずかの「悲しむ権利」を奪ってしまうことすらある。
──善意が加害になる。
「良かれと思って」やったことが、誰かを追い詰めてしまう。
それは、私たちの日常にもよくあること。
だからこそ、タコピーの言葉が
「あなたの優しさは、本当に誰かのためになってる?」
と問いかけてくるように思えるのです。
演出と作画が支える“心理のリアル”──声・震え・汗の重さ
この回が刺さったもうひとつの理由は、「描き方」が圧倒的だったから。
東くんの震える手。
しずかの曇った目。
湿った空気、曇天の画面トーン。
そして、声が震える演技。
──全部が、痛いほどリアルだった。
言葉では言えない感情が、体の動きや間(ま)で伝わってくる。
それは、ただアニメを“見る”のではなく、
感情に巻き込まれる体験そのものでした。
“東京へ行けるよね”──祈りと希望の、その先へ
第4話のラスト。
しずかがタコピーに向かって言った一言──
「東京へ行けるよね?」
それは、絶望の中で絞り出した、祈りの言葉でした。
彼女はまだ、チャッピーが東京のお父さんのところで元気にしていると信じている。
でも視聴者は知っている。
その希望が、どれほど脆いものであるかを。
それでもしずかは言う。
「行こう、東京へ」
それは過去を取り戻す旅であり、自分自身を救うための一歩でもある。
次回から始まる“東京編”。
果たしてそこで、彼女は何を得て、何を失うのか。
なぜ“エグい”と感じたのか──
この第4話を観たあと、多くの人が口にした言葉。
──「エグすぎた」
でもその感想の奥には、ちゃんと理由がある。
- 東くんの優しさが、自傷行為のように見えてしまったから。
- しずかの笑顔が、誰かの首を絞める呪文に感じられたから。
- タコピーの“ハッピー”が、痛みを直視させるトリガーだったから。
『タコピーの原罪』は、ただの“重いアニメ”じゃありません。
これは、「誰かを想うこと」の美しさと怖さを描いた、祈りの物語です。
あなたが流した涙には、ちゃんと意味がある。
この記事が、その涙の理由に少しでも触れられていたら──それが、何より嬉しいです。
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