『天幕のジャードゥーガル』のフォント担当は、スタッフクレジット上では阿閉高尚氏(atd inc.)であることが確認できる。
ただし「専用書体を新規に開発した」という公式発表は、今回確認した公式サイトや制作インタビューには見当たらなかった。
この記事では、その事実関係を一次資料であるスタッフクレジットから丁寧に整理し、何が確認できて何が確認できていないのかを切り分けていく。
『天幕のジャードゥーガル』のフォントデザインは誰が担当している?
結論から言うと、フォントデザインという肩書きでクレジットされているのは阿閉高尚氏(atd inc.)だ。
アニメスタッフデータベースに掲載されているスタッフクレジットの構成を確認すると、シリーズを通じたクレジット項目の中に「タイトルロゴ」の記載があり、同作のタイトルロゴまわりのデザインに阿閉氏が関わっていることがうかがえる。
さらに、アニメ感想サイト「アニ録ブログ」が2026年8月5日に公開した記事では、「第6幕 メルゲンの民」のスタッフクレジットとして「フォントデザイン:阿閉高尚(atd inc.)」という記載が紹介されている。
つまり、少なくとも第6幕の時点でも「フォントデザイン」というクレジット項目自体は継続して存在しており、第1話だけの特別な扱いではなさそうだという点が、今回あらためて確認できた事実だ。
一方で、「作品全体で使われる本文用のフォントを一から新規に作った」という説明そのものは、今回確認した情報の中には見当たらない。
これは、フォントそのものの新規開発と、文字デザイン(ロゴやタイトル表記)を分けて考える必要があることを示している。
フォントデザイン阿閉高尚(atd inc.)とは何を担当したのか?
アニ録ブログが紹介した「第6幕 メルゲンの民」のスタッフ表記を見ると、デザインワークスの欄に続いて「フォントデザイン 阿閉高尚(atd inc.)」という一行がある。
同じ回のデザインワークス担当には尾崎智美氏、木下絵李氏、石松氏、やぼみ氏、齋藤睦氏(グラフィニカ)といった名前が並んでおり、この一群が作品の美術・文字まわりの設計に関わっていることがうかがえる。
阿閉氏の肩書きである「atd inc.」は、東京都中野区に拠点を置くグラフィックデザイン制作会社で、公式サイト(atsuji-t.com)によれば、エンターテインメント分野を中心にグラフィックデザインの制作を手がけている。
映像作品のタイトルロゴや宣伝美術のクレジットで名前を見かけることが多い制作体制であり、劇場アニメやテレビアニメの文字デザインを専門とするチームだと考えられる。
このクレジットの並びから読み取れるのは、フォントデザインという項目が、少なくとも第6幕の時点まで継続して各話のスタッフ表記に含まれている点だ。
ただし、これが「本編のセリフや字幕に使われる書体そのものを新規開発した」ことを意味するのか、「タイトル表記や特定カットの文字デザインを担当した」ことを意味するのかは、クレジットの記載だけでは断定できない。
阿閉高尚氏(atd inc.)という固有名詞が明確にクレジットされている以上、少なくとも文字デザインを専門とする外部クリエイターが本作に継続的に関与している事実そのものは動かない。
タイトルロゴのデザインも阿閉高尚(atd inc.)が担当
アニメスタッフデータベースのクレジット構成には、「タイトルロゴ」という項目が独立して存在する。
これは各話限定の「フォントデザイン」クレジットとは別に、作品タイトル『天幕のジャードゥーガル』のロゴマークそのもののデザインを指すクレジットだと考えられる。
『天幕のジャードゥーガル』というタイトル文字は、公式サイトやパッケージ、宣伝ビジュアルなど、作品のあらゆる場所に登場する「顔」の部分である。
歴史ものやファンタジー作品では、タイトルロゴに独自の装飾や古文字風のあしらいを加えることで、世界観を一目で伝える手法がよく使われる。
本作のタイトルロゴにも、モンゴルやペルシアの文化圏を思わせる意匠が感じられるが、それが具体的にどの文字資料を参考にしたのか、既存書体をベースに改変したものなのかについては、公式からの詳しい説明は今回確認できなかった。
デザインの「意図」までは公表されていない以上、見た目の印象だけから「古代文字をフォント化した」と断定するのは避けるべきだろう。
なぜ「専用フォントを開発した」と断定できないのか
ここで整理しておきたいのは、「フォントデザイン」「タイトルロゴ」というクレジットの存在と、「作品専用の書体(フォントファイル)を新規開発した」という主張は、イコールではないという点だ。
映像作品における文字関連の仕事は、大きく4つに分けて考えると整理しやすい。
| 仕事の種類 | 内容 | 本作での確認状況 |
|---|---|---|
| 既存フォント選定 | 市販書体を選び太さ・字間などを調整する | クレジット上は不明 |
| タイトルロゴデザイン | 特定の文字列(作品タイトル)だけを専用デザインする | 阿閉高尚氏(atd inc.)担当と確認済み |
| 装飾文字デザイン | 劇中の看板・巻物などを個別に描く | クレジット上は不明 |
| 専用書体の新規開発 | 全文字種を新しく設計するオリジナルフォント制作 | 情報なし・未確認 |
このうち、アニメ作品で最も多いのは表の2番目・3番目にあたる「特定の文字列やカットのためのデザイン」であり、4番目の「全文字種のオリジナルフォント開発」は、相応の期間とコストがかかるため、明確にクレジットされ、かつ公式にアナウンスされることが多い。
『天幕のジャードゥーガル』のクレジットにある「フォントデザイン」「タイトルロゴ」という記載は、少なくとも表の2番目のような文字デザイン業務が行われたことを示しているが、4番目の「専用書体の新規開発」を証明するものではない。
今回、MANTANWEB、WIRED.jp、アニメイトタイムズが配信した制作陣インタビューをあわせて確認したが、いずれの記事でも書体名や専用フォント開発についての具体的な発言は見当たらなかった。
したがって、現時点で誠実に言えるのは「文字デザインに専門のクリエイターが継続的に関わっていることは確認できるが、専用フォントの新規開発という情報までは確認できない」という一点に尽きる。
色彩・構図のこだわりとフォントの関係をどう見るか
『天幕のジャードゥーガル』の映像面で公式にはっきり説明されているのは、フォントよりもむしろ色彩と構図のこだわりだ。
MANTANWEBが2026年7月5日に配信したAbel Gongora監督インタビューによれば、監督は原作のクラシックな雰囲気を生かすため、美術やキャラクターデザイン、色彩、音楽にどこか懐かしい空気を持ち込もうとしたと語っている。
具体例として名前が挙がっているのが、森康二氏が作画監督を務めた東映動画(現・東映アニメーション)の『わんぱく王子の大蛇退治』であり、同作のような黄金期の東映作品からの影響を受けていると説明されている。
さらに同インタビューでは、デジタルらしさを減らすために線を粗くしたり、色にテクスチャを加えたり、コンポジット段階で粒子(グレイン)を加えたりする工夫についても語られている。
これらの発言から見えてくるのは、本作の「歴史的な質感」は、フォントという個別の要素ではなく、色彩・構図・美術という映像全体の設計によって作られているということだ。
文字のデザインも、この大きな美術方針の中の一部として位置づけられていると考えるのが自然であり、タイトルロゴや文字まわりのデザインも、線の粗さやグレイン感といった美意識のもとで作られている可能性は高い。
ただし、これはあくまで公表されている美術方針からの推測であり、フォントデザイン単体についての公式なコメントではない点は改めて強調しておきたい。
考察:フォントの正体探しより大切な視点
ここからは、アニメライターとしての筆者の見解を述べたい。
検索で「天幕のジャードゥーガル アニメ フォント」とたどり着いた読者の多くは、オープニングやタイトルに使われている書体の「名前」を知りたいのではないかと思う。
しかし今回、公式資料を確認する限り、その答えはまだ用意されていない。
筆者としては、この「答えがまだない」という状態そのものが、実は本作の作り方をよく表していると考える。
歴史考証を重視するアニメ作品では、劇場アニメの記念碑的なタイトルロゴなどで「専用書体を新規に起こした」という開発秘話が、公式サイトや制作陣のインタビューで大きく取り上げられることがある。
そうした事例と比べると、専用フォント開発は通常、話題性の高いプロモーション要素として積極的に語られる傾向が強い。
その傾向を踏まえると、『天幕のジャードゥーガル』について今のところそうした発表が見当たらないことは、それ自体が一つの情報だと筆者は考える。
もう一つ、今回あらためて確認できたのが、「フォントデザイン」というクレジット項目が第1話限定ではなく、少なくとも第6幕まで継続して各話のスタッフ表記に含まれているという点だ。
これは特別編成の第1話だけに力を入れたという見方よりも、シリーズを通して文字まわりのデザインに継続的な工数がかけられている可能性を示しており、筆者としては当初想定していた「導入回だけの特別対応」という見立てを修正すべきだと考えている。
『天幕のジャードゥーガル』の制作体制は、原作者トマトスープ氏との丁寧なやり取り、モンゴル・ペルシア双方の文化・歴史考証協力者の参加、山田尚子総監督とAbel Gongora監督によるモンゴルでのロケハンというように、担当領域ごとに専門家がきっちり分かれている。
その体制の丁寧さからすると、もし「専用フォントを新規開発した」という事実があれば、色彩や構図と同じように、制作陣がインタビューで積極的に語っていてもおかしくない。
現時点でその説明が見当たらないということは、少なくとも大々的にアピールするような専用フォント開発は行われていない、あるいは行われていても現時点では情報公開の優先順位が低い、と考えるのが妥当だろう。
もちろん、この見方はあくまで公開情報から読み取れる可能性の話であり、断定はできない。
読者の皆さんには、「専用フォントが存在するかどうか」という一問一答的な興味だけでなく、色彩・構図・文字デザインが一体になって13世紀の世界観を作り上げているという、もう一段階広い視点で映像を見返してみることをおすすめしたい。
オープニングのタイトルロゴが画面に現れる瞬間、線の粗さやグレイン感の中にどんな文字の質感が置かれているかに注目すると、これまで気づかなかった発見があるかもしれない。
まとめ
『天幕のジャードゥーガル』のフォントデザインは、スタッフクレジット上では阿閉高尚氏(atd inc.)が担当しており、シリーズを通じたタイトルロゴのデザインも同氏が手がけていることが確認できた。
一方で、専用書体の新規開発や具体的な書体名の発表は、今回確認した公式サイトや制作インタビューには見当たらなかった。
色彩や構図については、Abel Gongora監督が『わんぱく王子の大蛇退治』のような東映動画黄金期の作品を参考にしたことをMANTANWEBのインタビューで語っており、映像全体の歴史的な質感はこうした美術方針から生まれている。
フォント単体の情報が少ない今だからこそ、色彩・構図・文字デザインを一体のものとして見返すことで、本作の作り込みをより深く味わえるはずだ。
よくある質問
『天幕のジャードゥーガル』で専用フォントは開発されたのですか?
今回確認した公式サイトや制作インタビューには、専用フォントを新規開発したという説明は見当たりませんでした。
スタッフクレジットにはフォントデザイン・タイトルロゴという項目で阿閉高尚氏(atd inc.)の名前が記載されていますが、全文字種のオリジナル書体開発を意味するかどうかは公表されていません。
フォントデザインのクレジットはどの話数に出てきますか?
アニ録ブログが2026年8月5日に紹介した「第6幕 メルゲンの民」のスタッフ表記に「フォントデザイン:阿閉高尚(atd inc.)」という記載があり、少なくとも第6幕まで継続して同項目が存在することが確認できます。
フォント以外に映像のこだわりとして公表されている部分はありますか?
はい。MANTANWEBが配信したAbel Gongora監督インタビューでは、東映動画黄金期の作品を参考にした色合いや、線の粗さ・グレイン感を加える映像づくりへのこだわりが語られています。
フォントそのものより、色彩と質感づくりについての説明のほうが具体的に公表されています。



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